★旧第五十九銀行本店本館(青森銀行記念館、弘前市、現存、重要文化財)
こちらの青森銀行記念館は、もとは第五十九銀行本店本館として1904年(明治37年)に建てられたものです。木造二階建て、ルネサンス様式の建築で、左右均等(シンメトリー)に調和よく構成されています。外壁には瓦を張り、その上から漆喰が塗り込められているほか、窓にも漆喰塗りの引き戸が設けられているなど、防火対策として和風技法がとられています。屋根組は、和小屋組と、ボルトを使用したトラスの折衷構造となっています。柱などの木材は青森県産の「けやき」を使い、建具も青森県産の「ひば」を使用しています。正面玄関上にはファンライトを施し、その上に展望台を兼ねた可愛らしい屋根窓(ドーマー窓)を設けるほか、屋根周囲にバラスレードを設けるなど、積雪地ならではの工夫も見られます。1階窓にはペディメントも見られます。1階部分には営業室と客溜まりとの間に仕切り壁がなく、2階部分にある大会議室は柱芯芯で14m四方の大空間を作り出しています。内部天井にはアカンサスの歯をモチーフとした「金唐革紙」(きんからかわかみ)が使われていますが、これはこの建物のほかには、小樽市の旧日本郵船小樽支店などに見られる数例だけです。
設計及び施工を手掛けた弘前の伝説的棟梁堀江佐吉(ほりえさきち)が、最も心血を注いだ最高傑作のひとつとも言われ、弘前市を代表する和洋折衷建築です。堀江佐吉は当時の岩淵惟一(いわぶちいいち)頭取からその手腕を見込まれ「堀江さん、あんたが気のすむようなものをこしらえてくだされば、よござんしょう」と建築のすべてを任されたという逸話が残っています。総工費はおよそ67,000円で、当時の弘前市内の同時期の建築と比べても破格でした。また、堀江佐吉晩年の59歳という年齢から考えても、それまでに彼が修得した和様建築技術のすべての技法と精力を注入したとも言えるでしょう。
1965年(昭和40年)現在の弘前支店の新築によりこの建物は取り壊される予定でしたが、完成度の高い優れたこの建物の保存を地元住民から強く要望されたため、解体せずに現在地に曳屋(ひきや)して保存されることになりました。
数多い明治の洋風建築のなかでも構造的技術的に優れ、また、随所に独創的な工夫が加えられている高い水準の建築として、1972年(昭和47年)建物と棟札が国の重要文化財に指定されました。