「観るだけ美術部」部長のブログ

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[放送大学]★「排球」が「バレーボール」になるまで

 「観るだけ美術部」部長は今週末、放送大学の単位認定試験にむけてのレポート(答案)を作成していました。作成の途中で、どうも解答がまとまらず、ボツにするつもりのレポートがあったのですが、いつかどこかで使えるかもしれないと思い、備忘録も兼ねて、記事としてここにUPしておくことにしました(このレポートはまだ作成途中であることをお含みおきください)。

 

「「排球」が「バレーボール」になるまで 球技の名称における交代」

 

 球技の名称は、明治時代は野球、蹴球、排球、庭球、籠球、卓球、水球のように「〇球」と訳された。だが現在では、「テニス」「バスケットボール」のように、そのまま外国語を使用することが多い。

 その理由として、佐山一郎氏は、著書『日本サッカー辛航記 愛と憎しみの100年史』(光文社新書)の中で、「蹴球」が「サッカー」と呼ばれるようになった理由として「1948年(昭和23年)に「蹴」の字が当用漢字から外されたのが大きい」と述べている。だが、本当にそうなのだろうか。佐山氏の説によれば、「蹴」球や「籠」球は説明できるが、野球、排球、庭球、卓球、水球は説明がつかないのである。

 そこで本稿では、球技の日本語における汎用性の変更について、そのミッシングリンクを明らかにしてみたい。ここでは、佐山氏の説とは異なる考えを提唱していくことにする。本稿では特に、「排球」「バレーボール」を取り上げて、分析していくことにする。

 筆者は、佐山氏の説(1948年の当用漢字による除外が大きい)ではなく、「日本、または日本代表チームが、国際大会に出場するにあたり、〇球という名称では不都合があったため、国際基準に合わせた」という仮説を立てた。これを、「排球」「バレーボール」を例にして検証していくことにした。

 「排球」という名称を追ってみよう。1927年(昭和2年)に設立された、現在の日本バレーボール協会の前身団体の名称は、「大日本排球協会」であった。その後、この団体は1946年(昭和21年)に「日本排球協会」に発展解消された。1946年の第1回国民体育大会のバレーボール競技について、当時の新聞(朝日新聞、1946年2月3日朝刊)では「國民體育大會排球競技」との記載がある。しかし、翌年1947年(昭和22年)には、これまでの「全日本排球選手権」が、「全日本バレーボール選手権」と名称が改められているのだ。つまり、佐山氏が提唱した当用漢字の改定に遡ること1年前に、「排球」は正式に「バレーボール」に名称変更がされているのだ。これにより、佐山氏の根拠は完全に失う。

 1947年に何があったのかを知ることは難しいが、いくつかの可能性を示しておきたい。「排球」と言うと、かつては9人制バレーボールのことを指していた。特に東アジアでは盛んで、極東排球大会まで開催されている。しかし時代が進むにつれて、国際規格に合致した6人制バレーボールへの移行が国威高揚と相まって叫ばれた。世界大会に出場するために6人制バレーボールに移行していかなければならない過程の中で、9人制バレーボールのイメージが強い「排球」という名称は避けて、6人制バレーボールのイメージが強い「バレーボール」という名称に変えたのではないかと考えた。つまり、「〇球」という名称からの交代は、国際規格、国際大会への出場という契機が存在したという私なりの結論に至ったのである。

 

参考文献

・『国民体育大会五十年のあゆみ』競技記録編、1998年

・『日本バレーボール協会五十年史』日本バレーボール協会編、1982年

 

 本稿の論旨からは若干それるため[注]に記載するにとどめるが、以下の論考については今後も検証していきたい

 1964年の東京オリンピックにおける球技の中で、「〇球」と記載されているのは「卓球」「水球」と、参考競技としての「野球」の3種目である。ここからは筆者の推測の域を出ないが、「卓球」は英語だと「Table Teniss」、「水球」は「Water Polo」である。つまり「卓球」「水球」は、英語読みすると「テニス」「ポロ」と混同されやすいのだ。こうした混同を避けるため、「卓球」「水球」は国際大会でも使用することになったのではないか。

 「野球」であるが、どうして「ベースボール」にならなかったのか。これも推測の域を出ないが、野球の場合、国際的にはマイナーな競技であり、国際大会がそもそも多くはなく国際基準に合わせる必要性が薄かったという側面、日本人における野球の意味合い(単なるスポーツではなく、そこには精神論なども強く関わっている)の側面、野球に限って言うと全体をまとめる団体が作れず意思統一が難しかった側面(全日本野球協会日本野球連盟全日本軟式野球連盟日本学生野球協会日本野球機構など、団体は多く存在する)などが挙げられよう。

 

あしたはきょうよりもっといい日。