「観るだけ美術部」部長のブログ

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あしたはきょうより、きっといい日。

[シルクロード]★河西回廊 西安とシルクロード石窟寺院 9日目 (011)

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(「観るだけ美術部」部長のシルクロードキャラバン(妄想編)」の予定ルート)

 この日は、この旅のハイライトでもある「敦煌 莫高窟」に出かけます。この日のために摂生し、体調を整えてきました。莫高窟は、敦煌市から東南方向に25kmほど行ったところにあります。

  敦煌市は、河西回廊を経てたどり着く甘粛省の最西端のオアシス都市。漢代には関所も置かれ、東西シルクロードの要衝として繁栄しました。シルクロードと言えば、まっさきに思い浮かぶ都市のひとつで、そのなかでも莫高窟は、世界各国から多くの観光客が訪れる世界遺産でもあります(1987年登録)。敦煌莫高窟は、漢文化の儒教思想道教思想をもとにしつつ、中央アジアやインド、ペルシャなどの芸術や文化を吸収し融合させてきました。さらにはギリシャ、ローマの影響も垣間見えるなど、その独特の高い芸術性には目を見張るものがあります。

 莫高窟は、366年仏教僧であった楽樽が開削を始め、その後1000年にわたって造営が続けられた仏教遺跡です。鳴沙山の断崖に南北およそ1600kmにわたって492の石窟が開かれ、2400あまりの仏塑像が安置されています。石窟の壁面には壁画が施されており、その総面積も4500㎡にも及ぶとか。

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敦煌莫高窟。そのなかでも、ひときわ目を引くのが、こちらの第96窟)

 本来であれば、敦煌莫高窟デジタル展示センターというところでおおまかな説明を受けた後での見学となるのですが、この日は別料金を支払い、さっそく石窟の見学となりました。なお、石窟は内部が完全写真撮影不可ですので、掲載画像は各方面からお借りしております。

 今回は、3つの特別窟のほか、いくつかの一般窟を見学することになっていますが、それ以外にも、例えば、井上靖敦煌』のモチーフとなった第17窟(1900年に数万巻の古文書が発見されました)、日本の法隆寺金堂壁画との関連性が指摘される壁画が発見された第220窟など、学術的に高い石窟の宝庫です。

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(第96窟には、高さ34mもの弥勒菩薩像が安置されています。初唐に造営されたもので、清代に補修がされ、白っぽいお顔をしています。奈良の大仏の2・5倍、安置されている建物は9層の楼閣で、ビルで言うと6階建ての高さ)

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(第45窟 A)

 まずは、特別窟でもある第45窟に入室させていただきました。第45窟は、盛唐に造営された石窟です。本尊を中心に7体の仏像が並んで脇を固めています。

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(第45窟 B)

 こちらの仏像は特に、謎めいた微笑みを浮かべています。シルクロード仏教伝来史においても重要な仏像のひとつでもあります。奈良法隆寺弥勒菩薩像との関連も指摘されています。

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(第45窟 C NHKさまよりお借りしました)

 こちらの画像は、特別にNHKシルクロード』よりお借りしました。インドのアジャンタ、アフガニスタンバーミヤン、キジル千仏洞と東漸していく仏教伝来の道が、ここで昇華したとも言えそうな、荘厳な作品です。

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(第57窟 樹下説法図)

 次に向かったのが、第57窟です。こちらも、美術の教科書では必ず登場する仏像です。初唐期のもので、本来は本尊を守る脇仏の存在なのですが、莫高窟の壁画を代表する作品として有名です。頭を少し傾け、色白の顔は宗教画を越えた甘美な表情のように感じられます。壁画全体を見回すと、黒変した仏画や、菩薩像も散見されることから、この観音像だけが、本体の色を保っていることに驚かされます。使用された顔料や、技法が違ったのでしょうか。まさに奇跡とした言いようがありません。この壁画を観るためにシルクロードの旅を始めたといってもよいくらいの貴重な壁画です。

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(第328窟)

 特別窟の最後に寄ったのが、第328窟です。盛唐期に造営された石窟で、8体の塑像が並んでいます。本来は9体の像が並んでいたそうですが、左手前の塑像は、アメリカのウォーナーによって持ち去られたそうで、現在はハーバード大学の美術館に展示されているそうです。第328窟の中央に鎮座する仏像は、ひげを蓄えており、インド仏教の影響が色濃く見られて興味深いです。第328窟は、初唐期の壁画も見どころです。天井まで、蓮の花が描かれ、その周りに飛天が飛び回っています。

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(第158窟の飛天図。飛天図は、莫高窟の代名詞でもあります)

 3つの特別窟の見学は終わりましたが、最後に一般窟をふたつご紹介。まず、こちらの画像は、第158窟の「飛天図」です。よく、敦煌莫高窟にはシルクロードの音楽が聞こえてきそうだと言われますが、それはこの飛天の奏でるペルシャ楽器(琵琶や笛など)によるものでしょう。

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(一般窟である。第259窟。北魏時代の塑像です)

 こちらの塑像は、第259窟。莫高窟が造営された直後の、北魏時代の仏像です。隋唐時代のような端正な表情ではないですが、穏やかな顔つきは仏教伝来初期の素朴な雰囲気を残して穏やかであり、莫高窟でも代表的な仏像のひとつです。

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(鳴沙山。言わば「鳴り砂の山」です。敦煌らしい観光地です)

 後ろ髪をひかれながら、莫高窟を後にしました(莫高窟には492の石窟があり、2400もの仏塑像があります。1日で回るなどできません)。続いて向かうのは「鳴沙山」です。シルクロード上の町、敦煌らしい観光スポットですね。山に見える黒い点々は、鳴沙山を登山している観光客だそうです。「鳴沙」とは、いわゆる「鳴り砂」のことで、伝説では、風が吹くと音が鳴ることから名づけられたとか。『史記』によると「晴れた日に風が吹いて砂が流れると、管弦や兵馬が打ち鳴らす太鼓や銅鑼のような音が聞こえる」という記述もあるそうです。

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(鳴沙山の往復には、ぜひラクダがおススメ。だって、ラクダもん)

 鳴沙山は、歩いても登れますが、ぜひラクダに乗ってください。シルクロードの旅をしている気持ちも高まりますし、お客さんが来ないかな-と、暇そうにしているラクダさんがいっぱい待機しています。料金は、いちばん高額なラクダの往復で60元(1200円くらいです)。

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(月牙泉。水量が減り枯渇の心配がされていたが、最近になって水量は戻りつつある)

 鳴沙山のすぐ近くにあるのが「月牙泉」です。砂漠の真ん中に湧くオアシスで、1000年以上にわたって砂に埋もれることなくオアシス都市を潤してきましたが、20世紀になって周辺の環境悪化から水位が低下していました。ここ数年来の環境整備により、水量が徐々に戻ってきています。ちなみに「月牙」とは「三日月」の意味だそうで。清朝時代から使われた言葉だそうです。

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(沙州市場。食材はもちろん、食堂、雑貨屋などが建ち並び、すごい賑わい)

 この日は、沙州市場(沙州夜市)にでかけました。近年大型ショッピングモールもできたそうですが、それでも昔ながらの市場は健在。380mにも及ぶ道路の両側には土産物店、屋台が並ぶ「商業一条街」や、手ごろな価格の食堂が集まるフードコートもあります。夕方から深夜にかけて、観光客や地元の人たちで大変な賑わいを見せています。

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(2連泊でお世話になった、敦煌賓館さんのお部屋)

 敦煌市は観光地であるので、ホテルもハイクオリティーから、チープな宿まで、いろいろです。お世話になった敦煌賓館さんは4★。とても快適に過ごせました。屋上から見る砂漠の風景が素敵でした。

あしたはきょうよりもっといい日。